糖尿病性腎症
糖尿病性腎症は、糖尿病に特徴的とされる三大合併症の一つで、腎臓の機能が低下する病気です。腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分を尿として排泄し、体内の水分量や電解質バランス、血圧などを調整する重要な役割を担っています。
糖尿病が長期間続くと、高血糖状態が持続します。この状態が続くと、全身の小さな血管(毛細血管)が自覚症状のない間に傷つき、糖尿病性腎症をはじめ、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害などの合併症を引き起こすことが分かっています。
糖尿病性腎症は、日本における人工透析導入の原因疾患の第1位であり、非常に深刻な病気です。しかし、早期発見・早期治療によって進行を遅らせ、腎機能の悪化を防ぐことが可能です。
糖尿病性腎症の症状
糖尿病性腎症は、初期段階では自覚症状がほぼありません。そのため、定期的な検査を受け、早期発見・早期治療することが重要です。
糖尿病性腎症が進行すると、以下のような症状が現れます。
- 尿検査で蛋白(たんぱく)が出現する(蛋白尿)
- 足や顔のむくみ
- 倦怠感
- 息切れ
- 食欲不振
- 吐き気
- 血圧上昇
- 貧血
これらの症状が現れた場合は、糖尿病性腎症が進行している可能性があります。早めに医療機関を受診しましょう。
糖尿病性腎症の原因
糖尿病性腎症は、高血糖状態が長期間続くことが主な原因です。高血糖状態になると、以下のメカニズムによって腎臓の小さな血管が傷つき、機能が低下します。
- 糸球体の基底膜肥厚・硬化:腎臓の糸球体は、毛細血管の束で構成されており、血液を濾過して老廃物を尿として排泄する役割を担っています。高血糖状態が続くと、糸球体の基底膜が肥厚・硬化し、濾過機能が低下します。
- 糸球体基底膜間隙の狭窄:糸球体基底膜間隙は、血液中の老廃物が尿として排泄される際に通る隙間です。高血糖状態が続くと、糸球体基底膜間隙が狭窄し、老廃物の排泄が阻害されます。
- メサンギウム増殖:メサンギウムは、糸球体を支える細胞の集まりです。高血糖状態が続くと、メサンギウムが増殖し、糸球体の構造が変化します。
- 炎症反応の活性化:高血糖状態が続くと、腎臓で炎症反応が活性化し、糸球体や腎小管に損傷を与えます。
糖尿病性腎症の病気の種類
糖尿病性腎症は、進行度によって以下のように分類されます。
1. 腎症前期
自覚症状はなく、尿検査で微量のアルブミン尿が検出されることがある。血糖コントロールが良好であれば、進行を抑制できる。
2. 早期腎症期
尿検査で持続的なアルブミン尿が認められる。糸球体の機能が低下し始め、腎機能の低下も徐々に始まる。血糖コントロールと血圧管理が重要になる。
3. 顕性腎症期
糸球体の機能がさらに低下し、腎機能が軽度から中等度に低下する。倦怠感、食欲不振、浮腫などの症状が現れることがある。食事療法や薬物療法による治療が必要になる。
4. 腎不全期
腎機能が中等度から高度に低下する。むくみ、息切れ、貧血などの症状が現れる。透析療法の選択肢を検討する時期になる。
5. 透析療法期
腎機能が高度に低下し、腎不全となる。人工透析や腎移植が必要になる。
糖尿病性腎症の治療法
糖尿病性腎症の治療は、進行度によって少し異なる部分もありますが、基本的には以下の3つの柱で行われます。
1. 血糖コントロール
血糖値を下げることは、糖尿病性腎症の進行を抑制する最も重要な治療法です。HbA1c 6.5%未満を目標とし、食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせて血糖コントロールを行います。
2. 血圧コントロール
高血圧は腎臓への負担を増加させるため、血圧を130/80mmHg未満にコントロールすることが重要です。降圧薬を用いて血圧をコントロールします。
3. 脂質コントロール
LDLコレステロール 100mg/dL未満、HDLコレステロール 40mg/dL以上を目標とし、脂質異常症がある場合は、食事療法や運動療法に加えて、脂質低下薬を用いて脂質をコントロールします。
病期別追加療法
- 1・2期: 基本的に共通療法のみ
- 3期: ACE阻害薬/ARB、SGLT2阻害薬/GLP-1受容体作動薬
- 4期: ACE阻害薬/ARB減量、透析準備
- 5期: 透析療法
その他
- 定期的な検査と医師の指導を受けることが重要です。
- 生活習慣の改善も重要です。
- 塩分・たんぱく質制限などの食事療法
- 禁煙
- 適度な運動
糖尿病性腎症についてのまとめ
糖尿病性腎症は、進行すると腎臓機能の低下を遅らせるのが難しくなります。
ひとたび透析療法期まで進むと、週に3回、毎回4時間以上の透析療法が継続的に必要になります。
そのため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
糖尿病と診断された方は、定期的に検査を受け、血糖値や血圧をコントロールすることが大切です。